会長コラム

会長コラム ~同人誌『飛翔』に投稿したコラム集~

遥かなる縄文杉

 かねてからぜひ行って見たい所であった、縄文杉を見る機会が巡ってきた。息子たちが屋久島行きの話をしているのを小耳にしたのが、今年の3月頃だった。
 夏の間、屋久島でガイドをしているというホステスの屋久島舞さんと、息子達が祇園のバーで懇意になり、5月に行く計画をねっていたのだ。息子二人は、舞さんが冬の間勤めている祇園の店に何度か通っているうちに屋久島行きの話で盛り上がった、と言う。
 旅行会社のパンフレットを眺めていても、山奥にある縄文杉までは登っていける自信はなく、いつも諦めていた屋久島であった。旅行社の案内状には初老用のコースもあるが、どれも往復11時間の縄文杉一日山登りまでは行けないコースであった。
 伊丹から屋久島直行便が取れて、5月13日、29歳の三男も参加して親子4人で向かった。旅行社ツアーであれば途中歩けなくなりご迷惑をかけないかと心配もしていたが、息子3人との山登りなら途中でおぶってもらってもいいかなと、心の底では嬉しい挑戦になった。
 世界遺産屋久島に降り立ちすぐに標高千mの屋久杉ランドを歩いた。本格登山に備えての足馴しのためでもあった。自然休養林の屋久杉ランドは千年杉や双子杉、くぐり杉など苔で被われた巨木の森をじっくり堪能できるコースであった。また板踏み道が整備され、歩きやすいコースを終わって管理棟に着たとき、駐車場で鹿が草をついばんでいた。
 翌日快晴の朝5時、宿泊ロッジから海岸道をレンタカーで出発し、途中の店で朝食と昼食のおにぎり弁当を買い求め屋久島国立公園内のバス停に着いた。一般車両進入禁止となっている登山バス停に着いたらすでに多くの登山者が待っており、私たちは最終便の6時のバスに乗り込んだ。登山バスは朝霧の中、鬱蒼とした山道を猛スピードで登っていった。
 7時、標高670mの荒川登山口でバスを降りいよいよ山登りとなる頃、小雨が降りだし雨がっぱに着替えた。寒さを感じながらも息子たちは冗談を交わしあい会話もはずんでいたが私は内心、ここでリタイアした方がよいのではと躊躇した。
 足腰がそれほど丈夫でない己れの体力を充分わかっているのに、これからの山登りを完遂出来るのかと自問しながらも、最初のトロッコ道を歩き始めた。延々と続くトロッコ道は、過去屋久杉を無尽蔵に切り倒し運んだ鉄軌道の残滓である。途中、廃墟となっている小杉谷の小中学校跡は大正最盛期150人の山林労働者家族が生活した子弟の写真案内板があった。2時間ほどの歩きにくい枕木道がやっと終わり、一服してこれからの道を見上げるとなんと本格的な登山道、またここでもリタイアしたい気持ちを息子達に云うわけにもいかず、急勾配の山道を両手を延ばして枝や石を掴みながら必死で登っていった。息も絶え絶えになりながら、ひたすら息子たちの跡を追いつつ歩き続けてやっとウイルソン株に辿り着いたのは10時頃となっていた。
 この山行きは行き着いたあと帰り道も同じ時間がかかる行程である。頂上の裏に整備された近道があり車で楽に帰れる所ではない。標高1300mの屋久島最高地に近い所に島津藩も切れなかった縄文時代の巨木杉が奇跡的に残ったのである。
 目的地にもう少しのところで、早朝の登山者が縄文杉を見終えた帰り道に出会うようになり、下山者から「もうすぐですよ。」と励まされ最後の気力を振り絞った。
 小雨降る中、先頭を4人で交替しながら、へとへとになって昼前にやっと幹周り16mの縄文杉にたどり着いた。保護のために近寄れなかったが、展望デッキから見る偉大で神聖な巨木に圧倒され、日本列島最古にただ見惚れるばかりであった。京都で見る杉林と違い、千年生を小杉と呼ぶ屋久杉の宝庫、樹齢三千年の大王杉、太古杉、仁王杉、翁杉を見ながら辿り着いた縄文杉はさすがに圧巻で疲れもふっとんだ。
 帰路は同じ道をひたすら歩き、夕方5時15分に朝の出発点にたどり着いた。往復10時間15分の山歩き、歩行計は4万歩を示していた。 疲れきってロッジに着き、風呂に入り食事をして、8時にはみんな死んだように眠ってしまった。
 翌日はガイドの屋久島舞さんの案内で、周囲130㌔の海岸線観光となり、赤海亀の産卵海岸や滝見物をして、屋久島空港から足をひきずりながら京都に帰った。
 縄文時代生の杉とは異論のあるところだが、こんな巨木が今も残っていることは希有なことであり同時に宝である。歴史は権力者に都合の良いようにつくり替えされるが、縄文杉は少なくとも弥生時代からの生き証人であることを、この目でたしかめた旅であった。

2016年7月22日             人見明

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