会長コラム

会長コラム ~同人誌『飛翔』に投稿したコラム集~

木は生涯に二度大仕事をする

久しぶりに伐採現場の山に入り、用材を見てまわった。依頼主から今度の普請に付近の山の木を利用して下さいとの注文である。雑木もある山であるが、使える杉桧を見て回った。
 切り株の年輪を数えると100年生がわずかにあった。桧の100年生で元口の直径は50㎝程、8mの大黒柱をとる末口は30㎝弱である。 製材すると直径の7掛けで何とか21㎝角の大黒柱が取れるようであったが、真っすぐで枝が少ない良材は数えるばかりであった。永年手入れしていない山の木はこんなものである。
 木という素材は、その生涯に二度大きな仕事をしてまた自然に還っていく。一度目は山で立っている時で、二度目は切られて人間に役立っている時である。国土面積の67%が森林である日本の森の効用を考えてみると・・・・。
 第一に、地球温暖化の最大の要因である二酸化炭素(CO2)を吸収し、地球の生物を育む酸素を排出することにある。光合成と呼ばれるこの作用は若木である樹齢50年から60年でピークを迎え、100年を超えると殆どなくなるが、閉じ込められた炭酸ガスは、木材として存在している間は持ち続け、生涯を終えて自然に還る時は大気中に放出し、次の若い木に引き継ぐ。
 二酸化炭素は産業革命の前までは、大気中の濃度が280ppmであったものが現在では360ppmと増加した。このため地球温暖化により海水面の上昇による沿岸域の海化や島の消滅などの異常気象が観測されている。
 第二は、土壌を育てることにある。特に常緑広葉樹(照葉樹)は良質の水を育み、落葉広葉樹は葉を枯らして落とす。この葉が有機物を豊富に含む土を育て、水を豊かにするだけでなく、風に飛ばされたり、水に流されたりして平野の土を豊かにし、実りをもたらしてくれる。豊かな森から運ばれた養分を含んだ水は大海の沿岸漁業を育むのである。(コンクリートの川は、海に直行させるので平野の土は豊かにならず、地力を低下させる。)
 第三に、水源涵養とう保水能力を持っており、降った雨を貯え、浄化して少しづつ放出する力を持っている。ハゲ山や人工林の山は鉄砲水を流すが、雑木の森林ほどこの保水能力が高く、水の浄化力が優れている。ブナの大木は一本で、三反の田を潤す水を貯えると言う。
 第四は、森林は地球の生態系を養っているのである。多種多様な木が花を咲かせ、実を結び、微生物から小動物を養い、それをまた人間や動物が食べて生命の循環をしてくれる宝庫で、四季の変化を通して人間の感性さえも育む役割を果している。
 このほか、樹木は自らを外敵から守るためにフィトンチットという芳香物質を出しており、人体にも効用をもたらしてくれるし、森林の中は、自然のゆらぎとマイナスイオンに満ちて、森林浴等と言われるようにリフレッシュの最良の場ともなっている。
 木が生涯に行なう二度目の大仕事は、伐採されて木材製品となって人間生活を支えてくれることにある。建築用材から家具材、端材は燃料として生活の隅々にまで貢献している。
 木は成長した年月と同等の期間以上の耐用利用が出来る。50年生の木は住宅の柱となり、100年の木はその大黒柱となり、500年の木は堂宇の心柱となる。木は生きた年月と同等の期間、死してからその性能を失わずに活用されている。木材は伐採後200年ぐらいまで強度を増していき、それ以降は穏やかに強度を保ってくれる。鉄は酸化をして錆びて姿を消していく。コンクリートは風化をして姿を粉々にしていく。木は500年、千年とその姿を変えずに生き続けるのである。法隆寺改修工事の際、大切に残されている古木に鉋をかけた時、現われた木肌から芳しい桧の香が出てきた。1300年前の古材は年輪を数えれば、同等の時を刻んで生きているのである。 木材は使い方によって世界中で最も寿命の永い材料といえるのではないだろうか。

人見 明

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