会長コラム

大工の符丁

昔、現場でかわされていた符丁(隠語)を思い出した。符丁はこの頃はめったに使われなくなったが、含蓄のある言葉であるとともに残したいものである。

現場から聞こえてくる音も昔は、トントン、カンカンと金槌や玄能の音だったのが、近ごろではプシュン、プシュンとコンプレッサーで釘を打つ音に変わった。鉋削りの音もめったにしなくなり、丸鋸、タッカー、などの機械音ばかりになってしまった。足元は、電気のコードやコンプレッサーのホースでこんがらがっている有様だ。

「大工と雀は隅でなく」

大工仕事で一番難しいのは隅である。屋根の入隅の収まりの事で45度になる隅木やその隅木に取り付ける垂木の仕事が難しいので、出来ない大工は泣くのであるが、雀も入隅屋根にとまって雨を避けて鳴くことから云われたようだ。

「手切りまら出し、釘こぼし」

昔の職人の衣裳は、股引に腹掛、足袋と草履ばきであった。腰が座っていない大工は身だしなみも決まっておらず、肝心なところを出して、切れ物道具を持ったら怪我が絶えなく、また貴重な釘もよくこぼす事から、出来の悪い大工を揶揄したものだ。

釘をこぼすと、釘から芽が生えると怒られた。弊社でも内装に入るころから現場は土足禁止にしているが、草履ばきは見かけない。

「親方のいっとききばりは鬼よりこわい」

職人にとって親方は恐いものであった事は今も昔も同じだが、そんな親方がたまに職人の前でやって見せる仕事はいっときなので上手で早いが、一日やっている職人からすると続かないので、鬼よりこわい、と笑ったものだ。

「2分や3分はかかあの小遣い」

寸法どおりに仕上げるのが大工の信条であるが、時には失敗してほんの少し間違えることもある。そんな時に「かかあの小遣い」といって誤魔化してしまう。この2分や3分は江戸時代の単位と思えるが、最近まで言われてきた。

「差し金探しのうろうろ大工」

整理整頓は仕事を早く進める上で今も重要であるが、出来ない大工にかぎって鉋屑で埋まっている手元道具を探してばかりいる。差し金が出てきたら今度は墨差しがない、墨差しが出てきたら金槌を探している、といった事では何時までたっても仕事ははかどらない。

「小野小町や」

深草の少将が都から草深い醍醐の小野小町に1000回訪ねても逢ってもらえなかったことから、実は穴が無いとの例えにされた。

棟上げは、棟梁にとって昔は晴れ舞台であった。墨付けは棟梁一人で行い、職人が材木を刻む。一般住宅で柱や梁など墨付け材の本数は二百数十本であるが、その一本一本に仕口といわれる刻み箇所は一千数百箇所がある。たとえ一ヶ所でも間違うと組み上がらない。建て方は鳶によって組まれていく。梁に柱の臍穴がない時など、施主も見ているので鳶は棟梁に恥をかかせてはいけないと、施主に判らないように上から「小野小町や」といって合図を送ってくれる。大工たちはあわてて鏨(のみ)をもってかけ上がり、急いで穴を掘る。

昔、来ていた初老の棟梁が、大黒柱を1尺短く墨付けをしてしまった。外周が組み上がり大黒柱を建てたら1尺短い事が判り、あわてて材木屋に走り、みんなで刻んで何とかその日棟上げが出来たということがあった。その夜、棟梁は大工道具を縄で縛って謝りにきた。手間賃も受け取れないというのを親父はなだめたが、それから仕事に来なくなった。

道具箱を縄で縛るとは、もう一生大工をしないことを意味し、それで責任を取ったのである。

2013年12月16日

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