会長コラム

会長コラム ~同人誌『飛翔』に投稿したコラム集~

上棟

 9月の大安を選んで、クレーン車を呼んで2日掛かりの建て方をした。2日目の夕刻には構造部材は棟まで建ち上っていった。

 上棟式※は経費節減で神主の代りに、私が取り仕切った。

 建ち上った建物の中央、南向きを祭壇場所と決め、現場にある板を3枚並べて祭壇にし、4方広がりの扇子の中心におたふくの面を取り付けたご弊を建てかけた。棟板の表には「祝上棟」と施主名、その下に工事人の名前が書かれている。

 かってはご弊の書き手は社員で墨字の上手な方に頼んでいたのだが退職しているので結納屋にお願いしている。

 基礎工事から弊社の設計施工であるから、弊社名と墨着け刻みをした棟梁の名前が並んで書かれている。裏面には日付を記している。令和ではなく西暦である。

 祭壇には神具と大工が墨付けをした墨坪と竹の墨差しと、差し金、手斧(ちょうな)とカンバン板※を並べ、両脇にはお祝いに頂いたお酒を供えた。備品の盛り物に米、塩、酒をそそぎ、蝋燭をたてた。そんな準備をしている間に、みんなは現場に散らばっている材木や工具を手早く片付けシートをたたんで、はき掃除をしてくれていた。

 準備がととのい、これから上棟式を行ないますと声をかけ、みんなが祭壇の前に集まった。準備に係った時間は約20分ほどである。永年上棟式は、神社の神主を呼ばず手前で行なっているから、みんなも心得たもので、てきぱきとやってくれる。

 蝋燭に明かりを灯して、施主から簡単な挨拶のあと、一人ひとり祭壇に拝礼して、無事上棟出来たことを喜んだ。参列したのは施主と弊社大工と基礎工事をした社員。

 拝礼のあと、4方固めの酒、米、塩を東北角柱の根元に撒き、施主と大工2人が清める。ぐるっと4方角を一巡して戻ると、次は棟木に固めの槌音を響かせる。だれにやってもらおうかと思案していたら、誰かから声が係って指名された若い大工が儀式用の掛矢を持って、するすると棟まで上がってた。

「よぉーとう」の掛け声と共に掛矢を打ち下ろし、下で見ていた者も声をあわせてた。

 一昔前は、一連の儀式のあと現場で小宴が用意され夜おそくまで歓談したものだが、飲酒運転禁止の世の中になり、飲酒を伴う宴会は今は無くなった。

 手刻みの無くなった今日では、上棟までの作業は大工にはない。工場から加工された木材が何回も現場に運ばれてきて組み立てるだけだから、上棟の達成感も無くなった。

 近所の仕出し屋に折り詰めを依頼すると、ながいこと作っていないとのことだったが引き受けてくれた。

 平屋の建物だが、棟の高さは6mを越える。今回の建物は、工場プレカットでなく完全手刻みで行なったので、この上棟式まで3ヵ月半かかった。プレカット加工なら自動加工機械の中を材木が通過して流れて両仕口と、継手、穴、臍、梁受け等を刻んでくれる。

簡単な家なら加工工場では一日で刻み仕上げられる。

 今回の建物は丸太の両側のみ製材した太鼓梁を15本使い、太鼓梁の重ね組み方をしている。角材の 梁の継手も金輪継ぎ、小屋組の一部を化粧表しとし、小屋束、束貫、母屋も太鼓梁も鉋掛け仕上げにした。さらに太鼓梁が交差する所は丸みを拾わなければならない。そんな訳で曲がった丸太や15㎝以上の角材はプレカット加工機では出来ないのである。

15㎝角以上の柱が5本あり、大黒柱は24㎝角の槐(えんじゅ)で、受ける太鼓梁は30㎝の太鼓梁で丸みを計って加工するので、この大黒柱一本の墨付け加工は一日では終わらなかった。

 そのような訳で計画段階から、手刻みでいくしかないとふんでいたのだ。手刻みは若い大工を育てるのに絶対必要で、今回の刻み加工には3年目の見習い大工をつけた。弊社は若い大工育成にも努めてきたので、創業105年の間永続して仕事が確保出来ている。

 

※ 用語解説

* カンバン板とは、墨付けのために板(合板)に図面を書き、墨付けをしていく現場用図面

* 上棟式とは、工期の中程で、無事に木材が建て上がった事を祝う儀式

 

2023年10月25日

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